この記事では、自己肯定感についてのよくある誤解の一つ、「肯定」と「好き」の混同についてキャリアコンサルタント・臨床心理士の立場で解説します。

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自己肯定感はすべての土台

自己肯定感は、やりたいことを見つけて人生を充実させたり、仕事で成果を出したり、幸せな人間関係を築いたりする上で、一番根底、土台となる必要なものです。

しかし、こんなに大事なものであるにもかかわらず、自己肯定感について正しく理解されておらず、間違った思い込みに捉われてしまっている方もいます。

そのように間違った思い込みに捉われていると、自己肯定感を高めるために、良かれと思って一生懸命取り組まれていることが、かえってマイナスになり、完全な逆効果になってしまいます。

すると、ますます自己肯定感が下がって自己否定が強くなり、「どうせ自分なんて何をやってもうまくいかない」などと考えてしまい、やりたいことも見つからない。仕事で成果にもつながらない、人間関係もうまくいかないという、ますます悪循環になってしまいます。

まずは、自己肯定感を正しく理解するために、自己肯定感の定義から見ていきましょう。

自己肯定感とは

自己肯定感とは、

  • ありのままの自分を認識し、事実として受け入れる
  • 自分は自分でいいという感覚

のことを言います。

「肯定」という言葉は、英語ではYES。つまり、「その通りであると認めること」になります。

自己肯定というのは、ありのままの自分を客観的に観察し、事実を知り、その事実をその通りだと認めることです。

例えば、商談前にドキドキしている自分に気づいたら、「今ものすごく緊張しているな」と、ありのままの自分を認識し、緊張しているという事実を受け入れる。

これが自己肯定になります。

「自己肯定」というのは、目に見えない概念であるため、正しく理解されていなかったり、誤解されている点が多くあります。

弊社の研修・動画コンテンツの中では「自己肯定感についてのよくある誤解4つ」をご紹介していますが、この記事ではそのうちの一つ、「自己肯定」と「自分を好きになること」の混同について解説します。

「自己肯定」と「自分を好き」は違う

自己肯定感が低い方によくある誤解の一つが、「肯定」と「好き」を混同してしまっているという誤解です。

自己肯定は、自分を好きになることではありません。

英語のYESとLIKEは全く違う概念です。

例えば、「今、緊張しているなぁ」とか、「確かに自分には緊張しやすいところがあるよな」と、ただ事実をありのままに受け入れることが自己肯定です。

もちろん、「こんな自分も好きだな」と自然に思えたら、それは素敵なことです。しかし、それは自己肯定とは関係がありません。「緊張しがちなところもある自分が好きだ」と思わなければならないわけではないのです。

緊張している自分に気付いて、「あー、また緊張しちゃってるなぁー、嫌だなー」と思ってもいいのです。

そして、このように認識できる人は、「緊張している」という事実と、「それに対して嫌だなと思っている自分がいる」という事実を両方客観的に捉えられているので、かなり自己肯定感が高いと言えます。

逆に、本当は緊張していることを嫌だと思っているのに、その感情を自分で受け入れられず「緊張しがちな自分も好き!」と無理やり思い込もうとしている人は、自己肯定感が低いです。

このように、「肯定」と「好き」は全く違う概念です。

緊張している自分を必ずしも好きにならなければならないわけではなく、緊張しながらも必要なことができればよいでしょう。

もし、緊張によって悪影響が起こっているのならば、きちんと対策を考える必要があります。

例えば、商談中に緊張してしどろもどろでお客様に必要なことがお伝えできないと、当然仕事の成果が上がりません。

「緊張している自分も好きだからこれでいいんだ」などと、放置するのではなく、きちんと対策をする必要があります。

例えばオリンピックに出るようなトップのスポーツ選手でも、大舞台にすごく緊張することはよくあります。

しかし、緊張のあまり普段のパフォーマンスが発揮できないと目標達成の妨げになってしまいますから、緊張する前提で、緊張時にも普段のパフォーマンスが発揮できるようトレーニングを積んでいます。

さらに、緊張やプレッシャーをネガティブに捉えるのではなく、応援やパワーに変えて成果につなげていくというトレーニングもされています。

「肯定」と「好き」を混同しないように気をつけてください。

自己肯定感を高めるための効果的なスタンス

自己肯定感を高めるための効果的なスタンスは、自分を好きになろうとするのではなく、自分についてありのままの事実を観察しようとすることです

客観的にありのままを観察することで、自分について認識できる部分が増えていきます。これを専門用語で「自己認識が高まる」と言います。

「自分にはこんなところもあるんだな」と、様々な点に気付けるようになると、自然と「こういうところは好きだな」と好ましく思えることもあるでしょう。それはとても幸せなことです。

しかし、自分について気づいた点を必ずしも「好き」と感じる必要はなく、どう感じてもOKです。

これが「ありのままでいい」ということです。

「本当にそうかな?」と、疑問を感じることもあるでしょうし、「えー!こんな自分は嫌だ!最悪じゃん」なんて、受け入れがたく感じてしまうこともあるかもしれませんね。

どんな感情が出てきてもOKです。ネガティブに感じることと、自己肯定感が低いということとは違います。

「自分ってこういう部分もあるんだな」という事実、「それに対して『嫌だな、受け入れがたいな、最悪じゃん』って思っている自分がいるな」という事実、その両方を客観的に認識できる人が自己肯定感が高いのです。

「肯定」と「好き」を混同すると逆効果

「肯定」と「好き」を混同していると逆効果になります。

自己肯定=自分を好きになることと誤解し、「自分を好きにならなければ!」と思い込んでいると、自分自身を観察するときに、無意識に自分が好きになれるような点だけを見つけようとしてしまったり、自分が受け入れがたい、好きだと思えない点を気づかないようにしてしまったりします。

つまり、自分を観察する時にフィルターがかかってしまいうのです。

すると、ありのままの自分を客観的に捉えられませんから、自己肯定感が低くなります。

例えば、様々なセミナーを受けたり、自分探しの旅をずっと続けているのになかなか自分のことが分からず、「次こそは本当の自分が見つかるはず!」と、セミナーの受講や自己啓発ばかりを続け、しかしその割には一向に自分のことが分かっていない、セミナージプシーになっておられる方がいます。

その方は、おそらく「ありのままの自分を理解しよう」とするのではなく、「自分を好きにならなければ!」とか、「他の人にはない強みを見つけなければ!」のような思い込みで観察眼が歪んでしまっているのです。

これでは自己肯定感が低くなってしまいます。

「ありのままでいい」とは?

ありのままの事実を認識するというのは、プラスチックの緑のコップを「プラスチックの緑のコップだな」と認識することです。

この時に、「緑だからこそ好き」とか「プラスチックのコップこそ素晴らしい」のように思う必要は全くありません。

「ありのままでいい」というのは、「プラスチックの緑のコップはプラスチックの緑のコップでいい」ということです。

他のモノより優れていなければならないわけでもないし、これでなければならないというような唯一無二の価値が必要なわけでもありません。

同じように、商談前にすごく緊張しているなら「今、緊張しているな」「自分には緊張しやすいところがあるな」とただ認識する。これが自己肯定です。

繰り返しになりますが、「緊張する自分が好き」とか、「緊張するからこそ素晴らしい」のように思うことではありません。

「ありのままでいい」というのは、「緊張しているなら緊張しているでいい」ということです。

「緊張している」という前提の上で、成果が出せるように、あなたが困らないように対策を打っていけばよいのです。

いかがでしたか?

自己肯定について誤解している点に気付いたり、理解の解像度が上がれば幸いです。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

常光瑞穂

人と組織のWin-Winで幸せな成長を支援する心理コンサルタント。国家資格キャリアコンサルタント。臨床心理士。

京都大学大学院工学研究科修了後、子どものころから憧れたエンジニアとなるが当時の長時間労働の働き方が合わず1年余りで退職。自身のキャリアが見えなくなったことを機に京都大学、立命館大学大学院にて心理学を学ぶ。2003年開業。修士(人間科学、工学)。

弊社では、ビジネスパーソンが幸せに成果を出すための心理学コンテンツを企業研修・個人コンサルにてご提供しております。

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