仕事の目標ややりたいことを考えていく中で「人の役に立ちたい」「困っている人を助けたい」というニーズが出てくることがよくあります。

素敵なことだと思います。

しかし、この「人の役に立ちたい」というニーズには、健全なものと不健全なものがあります。

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「人の役に立ちたい」ニーズには
健全なものと不健全なものがある

健全なものは、仕事の喜びやモチベーションにつながりますし、もっと人の役に立てる自分でありたいという動機から、スキルアップにもつながります。

しかし、不健全なものは、短期的にはよくても、長期的には仕事依存になったり、やりすぎてバーンアウトしたり、仕事とプライベートのバランスを欠いたり、相手の反応や仕事の成果に一喜一憂し、ストレスをためてしまったり、相手が依存的になるなどの悪影響が出てきます。

同じ「人の役に立ちたい」というニーズでも全く違うのです。

この記事では、健全な「人の役に立ちたい」と不健全な「人の役に立ちたい」の違い、どうしたら、健全な方でいられるかという方法について、キャリアコンサルタント・臨床心理士の立場で解説します。

ぜひ、最後までご覧いただき、あなたが健全に「人の役に立ちたい」というニーズを叶えるためにご参考になれば幸いです。

では早速、両者の違いから見ていきましょう。

不健全な「人の役に立ちたい」と
健全な「人の役に立ちたい」の違い

不健全な「人の役に立ちたい」とは?

不健全な「人の役に立ちたい」というニーズは、「自分には価値がないという劣等感を抱えていたり、自己肯定感が低い人が、自分よりも優れていなかったり、不幸そうに見える人を助けることによって自分の劣等感や自己肯定感を補おうとするもの」です。

つまり、「人の役に立ちたい」というのが本当の目的ではなく、これは手段であり、本当の目的は「人の役に立てる自分である」と証明することによって、「自分の劣等感を解消したい、自分にも価値があると思いたい」ということです。

健全な「人の役に立ちたい」とは?

これに対し、健全な「人の役に立ちたい」の場合は、「役に立とうと立つまいと、自分は自分でいい、ありのままの自分の価値がある」と自己肯定感を持っている状態です。

つまり、自分の存在価値や有能さを証明する必要がありませんから、人の役に立ったり、何かがよりよくなることが文字通り本当の目的であり、そのための手段として、自分が提供できることをします。

つまり、真の目的が自分が救われたり認められることにあるのか、自分が提供できることで他者や社会に貢献したいというところにあるのかが、両者の違いになります。

健全なニーズは「誰にどう役立ちたいか」が具体的で明確

また、健全な「人の役に立ちたい」は、「誰にどう役立ちたいか」が明確です。

例えば、「飲食店でおいしいものを提供してお客様を笑顔にしたい」、「機械を作って、人々の暮らしを便利で豊かなものにしたい」のように、誰に役立ちたいのかという対象者や自分が何を提供するかが明確です。

そして、そのために自分に必要なことも具体的で明確に分かっています。

例えば、おいしいものを提供してお客様を笑顔にしたいけど調理のスキルが足りないなら、専門学校に通ったり、自分で動画を見て研究・試作を重ねるなど、スキルアップが必要です。

調理のスキルはあるけど、飲食店を開業したいのに経営のノウハウがないなら、そのノウハウを身につける必要があります。

調理のスキルも、経営のノウハウもあるけど、人材育成のスキルが足りなくてスタッフの方がすぐにやめてしまうなら、人材育成のスキルやノウハウを身につける必要があります。

このように、誰に何を提供して人の役に立ちたいというところが明確だから、そのために自分のやるべきことも明確に分かるのです。

他方、不健全な「人の役に立ちたい」の場合は、「誰にどう役立ちたいか」が不明確であったり、一貫性がなく、コロコロ変わります。

その理由は、本当に「人の役に立ちたい」というのが目的ではなく、自分の劣等感を解消したり、自己肯定感を補うことが目的ですから、「自分よりも優れていなさそうに見える人」「自分よりも不幸そう、大変そうに見える人」を助けたいと無意識に思うからです。

ですから、具体的に「誰にどんな風に役立ちたい」のかが不明確になります。

また、大変そうに見える人はどんなところにもいらっしゃいます。困っている人がいたら「この人も助けてあげたい」「この人も大変そうだから何とかしなきゃ」と、自分の能力やスキルは考えずに抱え込んでしまうこともあります。

しかし、実際には人の役に立つということは簡単なことではありません。

スキルや経験値も必要ですし、すぐに結果が出なくてもあきらめずに粘り強く継続することも必要です。

そのように長期的に継続してはじめて、自分が人を助けられるだけの力やスキルを身につけ、お役に立てる、ということが多いです。

自分の能力や限界を考えずに抱え込んで、ただ「頑張って助けよう」と思うだけでは、うまくいきません。うまくいかないと、劣等感や無価値観が刺激されてしまいます。

そして「本当にやりたいことではなかった」「自分には向いていない」と、すぐにあきらめてしまい、「こういう人になら役立てるかも」と、対象を変えるので、「誰に何を提供したいのか」が一貫性がなくコロコロ変わるのです。

不健全なニーズは感情のふり幅が大きくなる

また、不健全な場合は、感情のふり幅が大きくなるのも特徴です。

健全な「人の役に立ちたい」の場合は、うまくいかないとき、残念に感じたりガッカリはしますが、必要以上に落ち込んだり、自分を責め続けたり、強い怒りがわいてきたりはしません。

客観的に「うまくいかなかったな」「思ったような結果にならなかったな」と事実を受け止め、必要な行動をとります。

自分のスキル不足が原因なら、もっとスキルを身につけようとしますし、お客様のニーズが分かっていなかったのなら、傾聴力を高めて、しっかりお客様とコミュニケーションを取ろうとします。

優先順位を間違えていたなら、やる順番を変えるだけです。

タイミングが合わなかっただけなら、ちょうどよいタイミングを待てばいいでしょう。

一方で、不健全な「人の役に立ちたい」の場合には、うまくいかなかったときに自分の劣等感や無価値感が刺激されてしまいます。

ですから、起こった事実を客観的に受け止められず、過剰に自分を責めて落ち込んだり、「自分には価値がないんだ」と成果と自分の存在意義を結び付けて考えてしまったり、強い怒りや焦りや不安を感じたりします。

そのように考えることで、劣等感や無価値観がさらに強くなるという悪循環に陥ります。

時には、そのような強い感情が原動力となり、短期的には成果が上がることもあります。

しかし、そのようなネガティブ・パワーを原動力にした行動は、長続きはしませんし、身体や精神にも負担が大きいものです。

長期的には仕事依存・バーンアウトという問題が起こったり、視野が狭く、自分の物の見方だけに凝り固まってしまうことで、人間関係が壊れてしまうこともあります。

やはり、健全な「役に立ちたい」の方が長期的には成果につながりやすいです。

例えるなら、不健全な方は、すぐに着火してぼっと燃え上がるけど続かなかったり、必要ないところまで燃やしてしまう炎のようなモチベーション。健全な方は、穏やかで温かく燃えつづける、とろ火のような、安全で長続きしやすいモチベーションと言えます。

いかがでしょうか?

やはり健全な方がいいですよね?

では、健全な「人の役に立ちたい」になるためにはどうしたらいいのか、これからお話ししていきます。

健全な「人の役に立ちたい」になるには?

健全な「人の役に立ちたい」になるには、自己肯定感を高めること。これに尽きます。

そのためには、仕事の成果と自分の存在意義や存在価値を切り離して考えましょう。

仕事で成果をあげられたり、誰かの役に立てたらとても嬉しいことですし、それをモチベーションにしてもよいのですが、うまくいかなかったときに「自分には価値がない」と落ち込むのは不健全な考え方です。

もちろん、成果が出なかった点、至らなかった点は謙虚に、ありのままに受け止めることは必要です。例えば、「ここのコミュニケーションがうまく取れていなかったな」とか、「この優先順位を間違えていたんだな」などと、具体的・客観的に事実だけを受け止めるようにして下さい。そのように、具体的・客観的に認識できるから、今後に活かすことができます。

具体的・客観的に把握することなく、「自分はダメだ」「役に立てない自分には価値がない」のように漠然と自分を責めたり反省しても、具体性がないのでスキルアップにも成果にもつながりません。これではメンタルヘルスを悪化させるだけです。

まずは、うまくいかなくて過剰に落ち込んでぐるぐる考えたり、強い怒りや焦り・不安を感じたりしたときに、「今、感情に飲み込まれそうになって、不健全な考え方になっているな」と気づくこと。これが第一歩です。

白か黒かではなくグラデーション

また、先ほどから、「健全」「不健全」と対比して説明していますが、これは分かりやすいように対比しているだけで、実際には、健全/不健全という二者択一ではなく、グラデーションになっています。

100%健全という人も、100%不健全と言う人もあまりおらず、健全と不健全と両方のニーズを持っている人がほとんどです。

「健全7割・不健全3割」とか、「健全と不健全が半々」とか、「健全3割・不健全7割」のように、その割合が人によって違ったり、同じ人の中でも日によって割合が変わったりします。

特に、うまくいかなくて過剰に自分を責めたり、自分には価値がないと感じている時などには、「今、不健全よりの考え方になっているな」と気づいて、自分の存在価値を丸ごと否定するような考え方ではなく、具体的・客観的に考えるよう意識しましょう。

ミスやうまくいかない点があったとしても、それが100%ではないはずです。

「この部分はうまくいってるな、あとはここを改善するだけ」のように、良い点も改善点も両方、客観的・具体的に認識しましょう。そのように具体的に認識することで、スキルアップにもつながりますし、不健全な部分が減り、健全な割合が増えていきます。

同じ人の中でも、日によっても調子が悪い日、いい日、という波があると思います。

前向きに考えられる日もあれば、そうでない日もあるでしょう。

そのような小さな波がありながら、少しずつ健全な考え方ができるようにしていくことで、長期的に見ると着実に変わっていきます。

1年後に振り返ったときに、「去年は結構感情的に自分を責めてばかりいたけど、今はだいぶ健全に考えられる日が増えてきたなぁ。時々不健全な自分が顔を出して、人の役に立ちたいというよりは自分が認められたい、コンプレックスを解消したいってなっちゃうこともあるけど、全体的にはそういう考えは少なくなってきたなぁ。」というふうに、かなり変わっていることに気づくはずです。

私のクライアントさんでも、半年、1年という単位で振り返るとすごく考え方が変わって、「今振り返ると前はなんであんなに自分を責めたり、周りの人に怒ったりしてたんだろう?意味が分からない」と、別人のように変わっていく方もたくさんいらっしゃいます。

実は私自身も10代、20代の時にはめちゃくちゃ不健全よりな考え方をしていました。

しかし、心理学に出会ったおかげで、かなり健全に考えられるようになりました。とても生きやすくなりましたし、仕事でも無理なく成果があがるようになりました。

明日すぐに変わるのは無理ですが、長期的には人はかなり変われます。ぜひ、焦らずコツコツちょっとずつ、やってみて下さいね。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

常光瑞穂

人と組織のWin-Winで幸せな成長を支援する心理コンサルタント。国家資格キャリアコンサルタント。臨床心理士。

京都大学大学院工学研究科修了後、子どものころから憧れたエンジニアとなるが当時の長時間労働の働き方が合わず1年余りで退職。自身のキャリアが見えなくなったことを機に京都大学、立命館大学大学院にて心理学を学ぶ。2003年開業。修士(人間科学、工学)。