職場にパワハラを繰り返す人がいると生産性・業績の低下や企業価値の低下につながります。
しかし、行為者に対して指導してもなかなか改善せず、それ以上の対応が分からず、問題を放置してしまったり、まずい対応をして逆効果になっていることも多いのが実情です。
この記事では、職場でパワハラを繰り返す加害者(行為者)に対して、企業に求められる対応についてキャリアコンサルタント・臨床心理士の立場で解説します。
ぜひ最後までご覧いただき、生産性の高い、活力ある組織づくりにつなげていただければ幸いです。
(注:この記事は、経営者・人事・管理職・健康経営や組織づくりに関わる方々を対象にしています。ご自身が今、パワハラやいじめを受けていて、辛い状態にあるという被害者の方向けの記事は後日改めて作成したいと思います。)
まず、パワハラはなぜダメなのでしょうか。
「ダメに決まっている。当たり前のこと」と思われるかもしれませんが、改めて根本から確認していきましょう。
結論から言うと、パワハラは経営資源を無駄にする行為だからNGです。
企業活動では、ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産という6大経営資源を使い、価値創造することが求められます。
この6大経営資源の中で一番重要なものはどれでしょうか。
クイズです。考えてみてください。
一番重要なものはヒトです。
その理由は、ヒトだけが経営資源を増やしたり、減らしたり、使いこなすことができるからです。
例えば、情報という経営資源を考えてみると、どれだけたくさんの情報を持っていても、その情報を顧客のニーズを満たしたり、社会の課題解決に活用できなければ、価値にはつながりません。逆に情報の扱い方を間違えてしまうと、情報漏えいや改ざんなどのリスクに直結します。
つまり、これらの経営資源を活かすも殺すも人次第であり、「ヒト」という資源はこれら6大経営資源の中で上位に位置づけられ、他の5つの経営資源とは異なる位置づけになります。
さらに、企業価値の源泉が有形資産から無形資産へと変化しています。
無形資産の最たるものが人材です。
人は形ある有形資産に思われるかもしれませんが、価値創造をするためには、ただ人数が足りていれば良いというものではありません。健康で活力ある状態でいることが必要です。従業員の健康や活力は無形資産になります。
さらに、時代の変化で少子化が進み、人口減少時代に突入しています。人手不足や採用難が年々顕著になっています。
このような背景から、「ヒト」つまり人的リソースの重要度は年々ますます大きくなっているのです。
パワハラは、このように経営資源の中でも一番大事な人的リソースを失いかねない行為であり、経営資源を無駄にする行為になります。
人的リソースを失うことは、欠勤や退職のように目に見える形だけではありません。
モチベーションや活力が低下したり、「新たなことを提案して叱られるより最低限のことだけをやろう」という考えになり、創造性・クリエイティビティが低下するなど、目に見えない損失も大きいのです。
このような状態になると、価値創造ができず、業績の低下につながります。
さらに、パワハラによる企業イメージの失墜、ブランドに傷が付くことも考えられます。売上や利益に影響が出るだけではなく、採用活動にも影響が出てきます。
パワハラはこのように企業価値の低下につながりかねない行為です。
もちろん、経営的な観点だけではなく「人を傷つけるのはいけないというのは当たり前のことだ」と感じる方も多いでしょう。
しかし、パワハラを繰り返す加害者(行為者)には、このような人道上の理由を説いても伝わらないことも多いのが実情です。
「昔はこれが当たり前だった」、「自分たちの頃はもっと厳しかった」などと、パワハラによる影響を軽視する人もいるので、経営的な観点から説明する方がコンセンサスがとりやすいでしょう。
次に、パワハラを繰り返す加害者(行為者)に多い4つの特徴を見ていきます。
1つ目の特徴は、時代の変化に対応できていないという点です。
時代が変わり、必要なマネジメントが変化しています。
以前はピラミッド状の組織をつくり、業務に対するスキルや経験値がある人が役職者となり、その上司に権限や情報を集中させ、上司が課題の解決策を示し、具体的な指示を出す。そして指示を受けた部下は、その細分化された業務を言われたとおりにきっちりこなす。
このような組織の方が成果が上がりやすい点がありました。
しかし、現代はVUCAと呼ばれる、変化が早く、不安定で、不確実、あいまいな時代です。
何が正解か誰にも分かりません。必ずしもスキルや経験がたくさんある人が正解を知っていて、正しい指示が出せるわけではありません。
むしろ、スキルや経験を持っていることで過去の成功体験にとらわれてしまい、時代の変化に対応できず、生産性を下げてしまうことすらあります。
さらに、デジタルスキルに関しては、デジタルネイティブの若い世代の方の方が圧倒的に長けているでしょう。
ですから、今・これからのチームはピラミッド状の組織ではなく、役職は上下ではなく役割の違いであると捉え、情報を共有し、自由に発言できるフラットな組織を作ることが様々な意見やアイデアを吸い上げやすく、成果につながりやすいのです。
このように求められるチーム作りや人材育成の形が大きく変化していますから、当然マネジメントの手法も大きく変わっています。
このような変化に対応できていないと「加害の軽視」が起こります。
「昔はこのぐらい当たり前だった」と、自分の言動を正当化する発言をパワハラ加害者(行為者)から聞いたことがある方も多いでしょう。
さらに「人材育成に対する勘違い」も起こります。
「自分はこのような(パワハラ的な)指導のおかげでできるようになった」という発言がそれにあたります。
このような発言は、時代の変化に対応できていないという証拠ですから、「昔は当たり前でも今はダメ」と、指導していく必要があります。
パワハラ以外の点でも、以前より今の方がコンプライアンスは厳しくなっています。
例えば、高度経済成長期には環境負荷についてはあまり考えなくても済みました。しかし今は、ESG経営など環境に配慮した経営が必要となっています。
昔は当たり前でも今はダメなことばかりです。時代に合わせて対応が必要です。
さらに、昔と今では求められる人材像が大きく異なっています。
以前は経験やスキルを持っている上司が正解を示すことができ、部下はそれを指示通りにやれば成果が上がりやすかったのですが、今は誰にも正解が分からない、どんどん変化していく時代です。
指示通り動く人材ではなく、自律的・主体的に自ら考えて動ける人材を育成することが求められています。ですから、以前成果が上がった指導法を今も続けていてはいけないのです。
パワハラ加害者(行為者)に多い特徴、2つ目は痛みに鈍感であるということです。
身体的・精神的痛みへの鈍感さがあり、さらにそれを強さと勘違いしているという方が多いです。
これは次の2つのパターンがあります。
いずれの場合も、痛みへの鈍感さにより他人の痛みに対する共感性が欠如し、通常の指導を超えて行き過ぎた指導をしてしまいがちです。
また、弱さや傷つきを隠そうとしない人に対して苛立ち、「痛みを感じないことがいいことだ」と思い込み、「このぐらい耐えられなくては社会人としてダメだ」と教育しようとしてしまいます。それがパワハラや加害の軽視につながっていくのです。
それぞれのパターンに対する対処法を見ていきましょう。
1.の生まれつき痛みに鈍感な方は、自分の鈍感さを認識することが必要です。
以前の私のクライアントにも「パワハラ行為をしてしまうのを改善したい」と自ら相談に来られた方がいました。その方はセッションを繰り返す中で、ご自身の鈍感さに気づいていかれました。
「私は子供の頃からほとんど病気知らずで、身体がすごい丈夫なんです。精神的にも嫌なことあっても、寝たら忘れちゃいます。今まで、それが当たり前と思ってきたんですが、それは自分が恵まれている点でもあり、一方では人の痛みに鈍感という短所でもあったんですね。みんなが自分みたいに丈夫で、雑に扱ってもOKにできてるわけじゃない、感じやすく繊細な方もいるし、それは自分にはない強みであり、その人の持ち味なんだと初めて理解できました」と、おっしゃっていました。
そのように認識することで、心から感覚的に他人の痛みが分かるという状態にはならなくても、頭で理解して発言する前に「これは相手にとってはどういう風に響くかな?」と考えられるようになり、パワハラ行為を改善することができます。
2.のもともと鈍感なわけではなく、過去の教育の中で「痛みを感じてはいけない」と自分自身の感情にフタをしてきた人は、ご自身もこれまでの職業人生で自分をすり減らして無理をしてこられた方とも言えます。
過去にはそのように感情にフタをすることが有効だったかもしれませんが、今それが自分に対してストレスとなっていたり、他者の痛みへの共感性の欠如という弊害が表れている状態です。
ですから、時代の変化を知り、自分自身が「そのぐらいで泣き言を言ってはいけない」などと随分感情を押し殺して生きてきたことに気づき、過去の自分の傷つきを認めて、癒すことができれば変われます。
いずれにせよ、自分に気づく=自己認識が必要となります。
3つめの特徴としては、支配欲・コントロール欲が強いことが挙げられます。
過去の成功体験に裏打ちされた、自分のやり方や価値観へのこだわりが強かったり、多様性を認識できず、自分のやり方に従わせたいという思いが強かったり、「成果を出すためには従わせなければならない」という思い込みを持っていたりします。
しかし、先述の通り現代はVUCAな時代であり、正解は誰にも分からず、過去に成功したやり方がうまくいくとは限りません。
それなのに頭の中が、以前のようなピラミッド構造の組織のままで、「自分が正解を出し、部下を従わせなければならない」と思っているから、部下の行動をコントロールできないと不安に感じます。その結果、行き過ぎた指導になってしまうのです。
さらにその背景には、加害者(行為者)自身が、納期に追われていたり、「絶対に失敗できない」という強いストレスやプレッシャーにさらされていることもあります。
このような場合には、ただ「パワハラはいけない」と指導するだけではなく、加害者(行為者)自身のストレスやプレッシャーを軽減できるように、支援や環境調整が必要かつ有効です。
また、支援や環境調整をする際には、前提として加害者(行為者)自身にも、「自分がストレスにさらされていて、コントロール欲から行き過ぎた指導になってしまっている」という現状を認識していただく必要があります。
行為者自身が気付いていないのに、ただストレス軽減のための環境調整や支援だけをすると、本人は「自分の今までのやり方が正しく、間違っていない」と誤った自信を持ってしまうことにもなりかねません。するとパワハラ行為が繰り返されてしまいます。
4つ目の特徴は、言語化力の低さです。
特に抽象的な概念を言葉でうまく説明できず、「言わずに察してほしい。言わなくてもこのぐらい察するべきだ。なぜ分からないんだ」というイライラから、行き過ぎた指導やパワハラ行為になってしまうことがあります。
対話の中で「だから!」という枕詞が多かったり、「普通は~ですよね!」という決めつけが言葉尻に多く、自分の考えを言語化して感情的にならずに相手に伝えることが苦手な方が多いです。
さらに、冒頭にお伝えしたように、企業価値の源泉が有形資産から無形資産へと変化していますから、言語化力は以前よりも格段に必要になっています。
目に見える形がないものは言葉で説明しなくては伝わりませんから。
特にマネジメント上では、一人一人の「強み」や「やりがい」など、目に見えない抽象的な概念について対話したり説明をする必要があります。
現代のマネージャーには言語化力は欠かせないスキルです。
このような背景から、以前は問題なくマネジメントができていた方でも、言語化力がネックになって時代に対応できず、パワハラになってしまう場合もあります。
次に企業として必要な対応を見ていきましょう。
職場ではパワハラの防止措置が法律で義務付けられ、具体的には次の4点についての対応が必要です。
パワハラの疑いがある時の加害者(行為者)への対応としては、まず適切な事実調査を行います。
この結果、パワハラの事実はないと分かる場合もあります。パワハラの事実がない場合というのは、次の場合です。
この場合には、厳しい指導であってもパワハラではありません。
パワハラの事実がある場合には、再発防止のため指導・教育を行ったり、就業規則の定めに従って懲戒処分が必要かどうか検討していくことになります。
事業主がパワハラに対する方針を打ち出し、就業規則にも定めがあるのに適切な対応を怠ると、「この会社はパワハラを訴えても無駄だ」「会社としてパワハラを容認している」という姿勢を従業員に示してしまうことになります。
だからと言って、ちょっと小突いてしまったとか、少し言葉が荒くなってしまったということだけで懲戒解雇などの重い処分は、行き過ぎた処分であり、懲戒権の濫用になります。
感情ではなく規定に従って、処分を行うかどうか、行うとしたらどのような処分を行うのかを判断する必要があります。
よくあるNG例としては、例えば管理職以外の人が同僚をいじめることが度々あり、管理職から指導しても見えないところで、また新たなターゲットをつくっていじめを繰り返す場合などに、管理職が「この人には言っても無駄だ」と加害者(行為者)への指導をあきらめ、放置してしまうことがあります。
被害者のメンタルケアや、被害者に「気にしなくていいよ」と伝えるだけで対応を終えてしまうことがありますが、これはNGです。
加害者(行為者)に言っても変わらないとしても、「企業としてパワハラはNGである」という姿勢を示し続けるために、その都度、指導・教育は必要です。さらに、指導しても繰り返すのであれば、部署内だけで抱え込むのではなく、人事と連携して懲戒処分も検討する必要があるでしょう。
被害者の方からすれば、「気にしなくていいよ」と言われると、一瞬は気持ちがラクになるかもしれません。しかし、加害者(行為者)への対応をしていないと「え?じゃあ私が我慢し続けないといけないの?」、「なぜ私の方が異動しなければならないの?」、「会社として加害者に対応しないってことは、会社もパワハラを容認し、加担してるんじゃないの?」という状態になり、モヤモヤや不信感が募ります。
さらに、パワハラを起こさないために、普段から継続的な教育や啓発が必要です。
これは一度研修すれば変わるというものではなく、風土づくりのために継続的に行う必要があります。
人的リソースの重要度は年々高くなっており、時代の変化もあって人材育成に求められるスキルは非常に高度になっています。
自分の専門分野に関するスキルや経験があっても、それだけでチームをマネジメントすることはできません。世代や価値観が違うチームメンバーをどう育成すればよいのか、どのようにチーム作りを行えばよいのかなど、人的リソースを活用する方法については、まだまだ支援や教育が足りてないのが現状です。
しかし、「世代の違う社員にどう対応したらいいんだろう?」と、人事部や相談室に自分から相談に来られるマネージャーはかなり優秀な一部の方に限られます。
そのように自ら課題に気づき、支援を求められる方々ばかりではなく、困っているのに困っていると相談しづらかったり、誰にどのように相談していいか分からない方もいます。
さらには、それ以前に自分が困っていることにすら気づいていないという方も多いでしょう。
人事部や健康経営、人的資本経営に関わる部署の方々は、このように「自分が支援を必要だとも気づいていない」方への支援も必要です。
変化が早く、複雑化するビジネス環境の中で、どうすれば人材という貴重な経営資源を活用し、価値創造ができるのか。風通しの良い強いチームが作れるのか。
正解ややり方が決まっているわけではありません。
管理職とともに考え、問題解決にあたるというスタンスで、協力し合えるといいでしょう。そのように管理職自身が自分が困っている時にSOSを出せる風土があれば、パワハラにならなくて済むのです。
パワハラ加害者(行為者)への対応スタンスとしては、”積極的に経営資源を無駄遣いしてやろうと思っている人はいない”という前提で考えるのがよいでしょう。
適切な行動が取れ、チームでみんなで気持ちよく成果が出せるのであれば、わざわざそんなことをする必要はありませんから。
ただ、時代に付いてこれなかったり、痛みに鈍感であったり、支配欲やコントロール力を制御できない、言語化力が足りないなどの理由で、適切な行動がとれない人がいるだけです。
パワハラ加害者(行為者)も、企業にとって貴重な人材リソースです。
パワハラにあたる言動・行動はNGであると毅然と示し、違反があった場合には就業規則に従って処分や対応をしつつも、教育や支援、適切な配置などにより、パワハラ加害者(行為者)を活かしていく方法を見出していけるとよいでしょう。
「パワハラをする人って変われるんですか?」と、非常によく質問されます。
結論からお伝えすると、変われます!
ただし、本人の「変わりたい」という意思・意欲が必要です。
人の行動が変わる時には、一気に変われるのではなく、「①無関心期」→「②関心期」→「③準備期」→「④実行期」→「⑤維持期」という段階を踏んで変わっていきます。これを行動変容ステージモデルと言います。
「①無関心期」は、変わりたいと思っておらず、変わる必要を感じていない段階です。
パワハラにあたる言動を繰り返していて、指導しても改善が見られない方は、この無関心期にあります。
次の「②関心期」には、このままではまずいと感じていて、半年以内に何とかしたいという意思はあります。しかし、具体的にどうすればよいのか分からず、具体的な行動には移せていない段階です。
次の「③準備期」には、自分事として捉え、「自分が行動を変えなければいけない」と準備をしている段階です。
次の「④実行期」になると、明確に行動変容が見られます。しかし、まだ行動が変わり始めてから半年未満しか経過しておらず、まだ習慣化はされていない状態です。
続く「⑤維持期」には明確な行動変容が見られ、6カ月以上継続しているという状態です。
パワハラ加害者(行為者)がどの段階にいるかによって、必要な対応・支援は異なります。
①無関心期には、まず本人に気付かせることが必要です。
そのためには教育や指導をし、誤解や思い込みを解き、気づきを与えることや変わるための動機づけが必要です。
適切な懲戒処分が「自分は変わらなければいけないんだ」という気づきになることもあります。罰を与えることが目的ではなく、処分を受けてはじめて自分の課題に目が向く方もいるのが実情です。
さらに、本人に変わりたいという意欲がなければ、配置や役割の変更を考えていくことも必要です。
②関心期はこのままではまずいということには気づいています。
しかし、具体的な行動には移せていませんから、行動が変わることのメリットを伝え、変わるための動機付けが必要です。
③準備期は、自分事として捉えて行動を変えようと準備している状態です。
この段階で具体的なコミュニケーションスキルや感情コントロールの方法、マネジメントスキルを学習できるよう支援ができると効果的です。
具体的な手法を学び、その中から自分に合うものを選んで無理なく行動に移せるように支援していきましょう。
④実行期と⑤維持期には行動変容が始まっており、新しい行動に変えたことによるメリットとストレスの両方を感じている状態です。
例えば、以前なら「こんなこともできないのか!(怒)」のようにしか伝えられなかったのが、コミュニケーションスキルを学び、論理的・具体的に伝えられるようになります。すると、部下も受け取りやすく、チームで成果が上がるようになるなどメリットが出てきます。
そのようなメリットを感じている反面、人間は本来、変化に弱く、現状を維持したい性質があります。ですから、変化はよいことや自分が望んだ変化であってもストレスになります。
そのストレスに負けずに行動変容が継続維持できるよう、伴走支援を行うことが必要です。
早期の段階で「気づいてくれて変わり始めたから」と、放置してしまうとまた元に戻ってしまいます。
ですから、変化を承認し、継続を働きかけていきましょう。「自分はもう大丈夫だ」と気が抜けてしまうと、また元の言動が出てしまいますから、安心しすぎないように、「いい感じですね!これからがスタート地点ですね!引き続き風通しのよいチームづくりを頑張っていきましょう!」のように継続を働きかけていきます。
これだけ価値観が多様化している時代です。パワハラ加害者(行為者)でなくても、「自分は大丈夫だ」などと気を抜かない方がよいでしょう。
現に優秀なマネージャーは「何を言っても自分なら許される」などと気を抜いたりはしません。
「様々な感じ方、受け取り方をする人がいるから、常に相手の立場に立ってどう感じるか意識しなくては」と緊張感を持ち続けるくらいでちょうどよいでしょう。
また、せっかくいい習慣が身につけられていても、過度なストレスやプレッシャーがかかると、また以前の言動に戻ってしまうこともあります。
そうならないように具体的な環境調整や教育を継続していくことも必要です。
さらに、すべての段階を通して有効な働きかけが3つあります。
1.自己効力感を高める
自己効力感は「やればできる」「自分なら変われる」という感覚です。
コミュニケーションスキルはスポーツと同じで、正しいやり方で反復練習することで身についていきます。生まれた時から話せる人はおらず、後天的に身につけられるスキルであり、上手な人は、これまでの人生で意識的に、あるいは幼少期に上手な親御さんの影響を受けるなど無意識的に反復練習を繰り返してスキルを身につけています。
しかしこれを知らないと、生まれつきの才能であると思い、「自分は口下手だから、感情的にならずに指導するなんてできない」と諦めてしまう方もいます。
「誰でも後天的に身につけられるスキルであり、やればできる、変われる」と声掛けをし、自己効力感を高めていきましょう。
2.変わることのメリットを示す
さらに、変わることのメリットを示すことも効果的です。
「パワハラをしないことは当然のことで、できないのがおかしい」などと言われると変化する気が起こらなくなります。
「スキルを身につけ、管理職や先輩として影響力を上手に使い、チームを動かせるようになるとステップアップになりますよ」とか、「自分の幅が広がりますよ」など、メリットを示していくことも必要です
3.手本・見本を示す(モデリングの促進)
また手本・見本を示し、モデリングを促進することも有効です。
例えば、駒沢大学の駅伝の大八木監督は、2022年に出雲・全日本・箱根の3つの大会で優勝した功績をあげられました。
もともと駒沢大は駅伝の強豪校でずっと上位の成績をおさめていましたが、2016年あたりから成績不振に陥っていました。
その原因は、大八木監督のマネジメントスタイルに今の若い大学生が合わなくなっていたからでした。
監督はそれに気付き、「自分が変わらなければ」と、やり方を変えていきました。
以前は監督がすべての練習メニューを作り、学生はその通りに練習を行っていました。
当時の学生からすると「監督に逆らうとか、意見を言うなんてことはあり得ない、考えたこともない」という状態だったそうです。これは、大八木監督個人の問題ではなく、当時の大学スポーツの世界で、学生と監督の関係はそのような関係が一般的だったのでしょう。
しかし、もうそのようなやり方では、今の大学生はついてこなくなっています。それが成績の低迷につながっていました。
今は大八木監督が全部の練習メニューを決めるのではなく、3つぐらい「こういったやり方があるよ」と提案し、あとは学生が話し合って自分たちで決めているそうです。
1958年生まれの大八木監督が、自分のやり方を変えることで、かなり歳の離れた大学生の自主性やモチベーション、やる気を引き出してチームとして成果をあげています。
このような事例を知ることで、「自分も大八木監督のようにやってみよう!」とよいお手本を真似しやすく、変わりやすいです。
さらに、それぞれの会社で求められる人物像は異なりますから、「自社で求められる人物像や管理職像」を示すことも有効です。
また、チーム作りや人材育成・人材活用という点で優れている管理職を表彰する制度づくりも効果的でしょう。「営業成績を上げた人は表彰されるが、チーム作りが優秀でも表彰されない」という状態では、どのように人材育成を行えばよいのか、お手本がなくモデリングできません。
人的リソースという一番大事な経営資源を有効活用して価値創造につなげている方をピックアップし、みんなでお手本として目指していく、そのような風土を醸成していくことが効果的です。
弊社でも具体的な事例を紹介しながら、企業研修・コンサルを行っておりますので、もしニーズがあればお問い合わせください。
この記事では、パワハラ加害者(行為者)への企業としての対応について、お伝えしてきました。
ポイントをまとめると、パワハラは経営資源の中でも最も重要な人的リソースを失わせる行為であり、企業として対応が必要です。
パワハラ加害者(行為者)に多い特徴として次の4点があります。
パワハラ行為者は、本人の変わりたい意思・意欲があれば変われます。
企業としては、次の対応が必要です。
皆様の組織づくりや企業活動に少しでもお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
常光瑞穂
人と組織のWin-Winで幸せな成長を支援する心理コンサルタント。国家資格キャリアコンサルタント。臨床心理士。
京都大学大学院工学研究科修了後、子どものころから憧れたエンジニアとなるが当時の長時間労働の働き方が合わず1年余りで退職。自身のキャリアが見えなくなったことを機に京都大学、立命館大学大学院にて心理学を学ぶ。2003年開業。修士(人間科学、工学)。