自営業・フリーランスの方で、ある程度売上があがるようになったら、人材育成やチームづくりに悩み始める方は多いものです。
人にうまく任せられない、人がなかなか育たない、すぐに辞めてしまう、スタッフとの関係にストレスを感じるなど、人の問題で悩む自営業やフリーランスの方には共通点があります。
本記事では、初めて人を雇い、組織化や人材育成に取り組む自営業・フリーランスの方が考えておくべきポイントについて解説します。
今まさに人材育成にお困りの方や、これから人を採用しようかどうか迷われている方のご参考になれば幸いです。
目次
まず、自営業やフリーランスで、人材育成やチームづくりで悩まれる方の特徴が2つあります。
それは、
この2点です。
難しい資格をお持ちであったり、高い専門性や特殊なスキルをお持ちであったり、これまで仕事でかなりいい成績・数字を出された実績があるなど、個人技が高い優秀なプレイヤーの方が多いです。
ですから、売上は好調であったり、自分一人では回らないくらいの受注をいただけたりするので、人を雇って組織化しようということにもなるのです。
そもそもチームでやるほどの仕事量がなければ、人を雇って組織化するということにならないでしょうから。
なぜ、プレイヤーとして優秀で完璧主義な方が人材育成や組織化で悩まれるのでしょうか?
まず、完璧主義な方は、常に完璧を目指して努力する、細部にとことんこだわり、追求し、高い理想を追い求めて頑張って、その結果、何かがより良くなる、完璧に近づくことが楽しくて好きです。
ですから、高い精度が求められるような仕事や、何かを極めたり追求したりするようなクリエイティブなお仕事にはとても向いています。そして、そういった職種では、優秀なプレイヤーになれます。
しかし、プレイヤーとして優秀で完璧主義な方は、チームで仕事をするとき、特に自分がリーダーとなってチーム運営をしていくときに、壁にぶつかることがあります。
他の人にも自分と同じようにすること/できることを求めてしまう、つまり、「このくらいできるでしょ」「このくらい当たり前でしょ」という要求水準がとても高く、自分ができること、やっていることと同じ水準を他人にも求めてしまうからです。
しかし、その水準でできる人は、当然ながら多くありません。
それで、「自分でやったほうが早い」と、いつまでも自分がプレイヤーとして動いてしまうことになります。そして、自分の時間やエネルギーがボトルネックとなってそれ以上拡大できないというパターンに陥ります。
あるいは、人を採用して組織化を目指しても、ご自身がスタッフさんに対して「なんでこのくらいできないんだろう」とストレスを感じたり、その高い要求水準についていけなくてスタッフの方が離れていったり、体調不良になったり、委縮してしまってパフォーマンス発揮できない。そのような課題が起こりやすいのです。
しかし、プレイヤーとして優秀で完璧主義な方がマネジメントに向いていないわけではありません。
個人技の高い優秀なプレイヤーであり、かつ、人に任せることやチームづくりもうまく行っている方もいらっしゃいます。
では、その人たちはどのようにうまくやっているのか、これから解説していきます。
プロスポーツの世界には、個人技も素晴らしく優秀なプレイヤーであり、かつ、他のチームメイト、後輩からも慕われていて、チームを活性化してチームで大きな成果を出すことに貢献している選手がいます。
例えば、2023年のWBCでチームの雰囲気づくりに大きく貢献して、“陰のMVP”と言われたメジャーリーガーのダルビッシュ有選手なども、そのお一人でしょう。
あなたの身の回りにも、「あの人は個人技も素晴らしく優秀なビジネスパーソンで、かつ、チームメンバーにも慕われていてマネジメント力も高い」という方が、お一人くらいはいらっしゃるのではないでしょうか。
いわゆるプレーイングマネージャーとして活躍されている方々です。
そのような有能なプレーイングマネージャーは、プレイヤーの自分とマネージャーの自分をしっかり使い分けされています。
プレイヤーとしては、自分が納得いくまで、細部にこだわって完璧を目指したり、自分が納得のいくプロダクトを作り上げたり、結果を出して、それによって評価されたり、自分自身が輝くことを目指す。
一方で、チームをマネジメントするときには、自分の我やこだわりや自分自身が認められたいという承認欲求は一旦脇においておき、黒子になって、チーム全体で最大限の成果を出せるように、チームのみんなが活躍する場をつくることに徹する。
この使い分けができる人は、プレイヤーとしても優秀であり、マネージャーとしても優秀です。
プレイヤーの自分とマネージャーの自分の使い分けというのは、口で言うのは簡単でも、実践はかなり難しいでしょう。
なぜなら、プレイヤーとして優秀で完璧主義な方は、過去の成功体験やこだわりがありますから、どうしても「自分のやり方がいい」と、思い込んでしまうことがあるからです。
そして、部下やスタッフの方に、良かれと思って自分のやり方を押し付けてしまったり、自分のコピーのように動いてくれることを期待してしまう方も多いのです。
つまり、人材育成やチームづくりを、様々な強みや個性を持つメンバーをうまく調和させて、相乗効果を出しながらチームで成果を出していくという視点で捉えられていません。
「うまくできている自分のやり方を他の人にも伝えて、他の人が自分と同じようにできるようにしなければならない」とか、他の人も自分と同じようにできるようになれば、チームとしても成果が上がるという視点でしか見られていないのです。
しかし、部下やスタッフの方にとっては、やり方を教えられて「この通りやればいい」と言われても、それはあなただからできるんでしょう?というような、とても真似できないようなものであったりします。
これまでに、自分ではそれほど難しくないと思ったことを人に教えて、「いやいや、それは○○さんだからできるんですよ!」と言われた経験はありませんか?
もし、そのようなことを一度でも言われた経験があるとしたら、率直にフィードバックする人はごくわずかです。
実際には「はい!分かりました!」と返事をしていても、心の中では「無理でしょ」と思っている部下やスタッフはその何倍もいらっしゃるでしょう。
また、やり方を事細かに指示していると、部下やスタッフの方ご自身が個性や強みを活かして主体的に考えてやることができないので、力を発揮できません。
さらに、「プレイヤーとしての優秀を認めてほしい」という承認欲求がマネジメントしている時に出てしまうと、自分の知識やスキルに対して「すごいですね」「さすがですね」と言ってもらえることが嬉しくなってしまいます。
すると目的が「メンバーの成長を通じたチームでの価値創造や目標達成」ではなく、プレイヤーとして自分が認められることに、いつの間にかすり替わってしまいます。
これではチームでの成果にはつながりにくいでしょう。
昔を思い起こすと、上司や先輩の長ーいお説教や武勇伝に「だるいなー」と思いながらも、「さすがっすね!」と相槌を打っていたな……などと思いだす方も多いのではないでしょうか?(私自身も今、非常に耳が痛いなーと思いながら書いています。反省!)
では、プレイヤーの自分とマネージャーの自分を使い分けるためにはどうしたらいいのでしょうか?
これにはマネージャーとしてのビジョンを持つことが必要です。
「人格を磨こう」とか、「我を抑えよう」と意識するのではなく、「マネージャーとしてどうありたいか、何を実現したいのか、そのためにどんなチームをつくる必要があるのか」というビジョンを明確にしていきましょう。
例えば、“チームで自分一人ではできないような、大きな規模の仕事をしたい”というビジョンがあれば、日々の仕事の中で、プレイヤーとしての自分が出そうになって、「自分でやったほうが早い」と、手出し口出ししたい気持ちに一瞬かられても、「ちょっと待てよ、それをやり続けるといつまでも自分がプレイヤーとして動き続けるだけで、規模の大きな仕事をするビジョンは実現できないぞ」と、自分の在り方を補正することができます。
何のためにマネジメントするのか、どこを目指しているのか、マネージャーとしてどうありたいかというマネージャーとしてのビジョンがないままに、なんとなく組織化しようとすると、プレイヤーとしての自分が出てしまいます。
そして、マネジメントをする立場なのに自分のやり方や我を押し付けたり、自分の承認欲求を満たすことが目的になってしまい、うまくいかないのです。
そして、マネージャーとしてのビジョンというのは、自分が心からやりたい、ワクワクするものである必要があります。
「組織化するからにはこうあらねば」と、頭で考えただけで、心が動いていないイメージでは、口先で「こんなマネージャーを目指す」と言っているだけで、結局やっていることはプレイヤーとしての自分が出てしまいます。
これでは、ご自身もマネージャーの自分とプレイヤーの自分が使い分けできず、「また任せられなかった」と葛藤することになります。
メンバーからしても「『任せるよ』という割には、結局いつも口出し手出ししてきて、この人は全部自分の想い通りやりたいだけなんだよな。駒のようにただ指示通り動く人しか求めていないんだな」と、主体的に仕事に取り組みたい人ほどモチベーションがそがれてしまいます。
ですから、本やネットで情報収集して何かの受け売りで「マネージャーとしてこうあらねば」と頭で考えただけの立派なビジョンは、意味がないばかりか逆効果です。
3年後、5年後、自分が黒子となって、どんなチームでどんな風に成果を出していたら、心から嬉しいな、そんな自分が誇らしいな、組織化に取り組んできて本当によかったなと思えるのか、ワクワクするのか、ご自身の内発的なモチベーションをキャッチすることが大切です。
そのようにご自身の内発的なモチベーションをキャッチしたときに、そもそもマネジメントには興味がないと気づく人もいます。
実は、私自身もそうでした。私は28歳で起業して、最初は全く仕事がなく、とても苦労しました。
数年たって、何とかお客様もついてくださるようになり、自分一人では回らないほどのお仕事をいただけるようにもなり、なんとなく人を雇いました。
当時を振り返ると、こんなコラムをエラそうに長々と書いてきた割には、「心理コンサルタントとしてこうありたい」というプレイヤーとしてのビジョンのみで、「こんなチームをつくりたい」というマネージャーとしてのビジョンが全くないのに組織化しようとしてしまったのです。
客観的にはお仕事もいただけて、人も採用して、順調に見えていたかもしれません。しかし、私自身はやればやるほど仕事が楽しくなくなり、自分で作った会社なのに「会社に行きたくないなー」と思う始末でした。(いやお恥ずかしい……)
そんな状態になってはじめて、「あれ?私、何がしたかったんだっけ?」と、自分のビジョンを考えました。
私は、コンサルタントとして、クライアントさんに伴走して、夢や理想を実現するサポートをする仕事は本当に好きで、心から楽しくさせていただいています。
しかし、そのような専門家チームを自分がつくりたいか?と考えると、そこには全く興味がありませんでした。
「いつまでも一人のコンサルタントとして、クライアントさんと対話したい。それになるべくたくさん時間を使いたい」という自分のニーズに、遅ればせながらようやく気付くことができたのです。
そして、人は雇わないと決めて、生涯一コンサルタントで生きていきたい、それが私のやりたい生き方・キャリアだと思って今はやっています。
初めての人材育成で壁にぶち当たった自営業・フリーランスの方は、このように2パターンに分かれます。
1.マネージャーとしてのビジョンをつくって、プレーイングマネージャーの道を選ばれる方
2.マネジメントには興味がなく、現場でプレイヤーとして活躍し続ける道を選ばれる方
1の場合は、マネージャーとしてのビジョンを明確にし、そのビジョンが実現できるように人材育成やチームビルディングについて学んでいくことが役立ちます。
2の場合は、プレイヤーとしてのありたいビジョン、自分の強みや弱みを明確にし、「この業務は外注しよう」などと、プレイヤーとしてさらに活躍し続けるために必要な方法をリサーチをし、環境や仕組みをつくっていくことが役立ちます。
どちらの生き方も素敵ですし、優劣はありません。
どちらがお金を稼げるということもないでしょう。1の方が売上や規模は大きくなりますが、その分経費も掛かりますから、どちらのパターンでも稼いでいる人もいれば、稼いでいない人もいます。
しいて言えば、自分の心からのニーズに合っている方が、無理なく行動が継続できますので、収入にもつながりやすいです。心からのニーズにないことを自分に強制しても、短期的・表面的にはうまくいっているように見えても、長期的には成果につながらなかったり、ストレスでかえってマイナスになってしまうことも多いものです。
また、そもそも「収入はほどほどで良くて、それより自由な時間がたくさんほしいからフリーランスになった」というように、別のニーズが高い人も多いでしょう。
いずれにしても「自分がどうありたいか」というビジョンを自分で決めればいいのです。
今、人材育成や組織化でまさに悩んでいるという自営業・フリーランスの方は、どうすればうまくいくかという小手先の手法だけに捉われるのではなく、「そもそも自分は本当にやりたいのか?」を心に問いかけてみることをお勧めします。
また、これから人を雇おうかどうか迷われている方は、「人を雇うか一人でやるか」という目の前の2択だけを考えるのではなく、5年後、10年後にどのような生き方や仕事のし方をしていたいかという長期的なビジョンをイメージしてみて下さい。
そのあなたが理想とする生き方や仕事のし方を実現するためには?というところから逆算すれば、おのずと答えは見えてくるでしょう。
今回は、自営業・フリーランスの方向けに、「はじめて人を雇う前に考えておくべきポイント」についてお伝えしました。
まとめるとポイントは
の3点となります。
ぜひ、あなたも、ご自分の心に問いかけて、幸せなキャリアビジョンを描いてくださいね。
このコラムが何か一つでもご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
常光瑞穂
人と組織のWin-Winで幸せな成長を支援する心理コンサルタント。国家資格キャリアコンサルタント。
京都大学大学院工学研究科修了後、子どものころから憧れたエンジニアとなるが当時の長時間労働の働き方が合わず1年余りで退職。自身のキャリアが見えなくなったことを機に京都大学、立命館大学大学院にて心理学を学ぶ。2003年開業。修士(人間科学、工学)。