転職や異動、起業などのキャリア選択で悩んだ経験のある方は多いでしょう。
このような選択は、人生に大きく影響を与える大事な決断ですから、後悔しないようにしっかり考えていきたいものです。
この記事では、キャリアコンサルタントの立場から、キャリア選択で後悔しない決断をするために必要な前提、後悔しない決断をするための6つのポイントを解説します。
後悔しない決断をし、自分らしく幸せなキャリアを構築する方法が分かりますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
キャリア選択で決められない理由の多くは情報不足にあります。
これについては、以前のコラムでも解説しています。
上記の記事は、転職について解説していますが、起業や異動などの選択でも、決められない理由の多くが情報不足にあり、最初にやるべきことは情報収集・リサーチというのは同じです。
しっかり情報収集・リサーチをすることで、迷っている選択肢に対して、それぞれを選んだ場合の未来のイメージがある程度解像度高く持てるようになります。
このような状態になってはじめて、どちらを選ぶかという判断ができるようになります。
今、決断に迷っている原因が情報不足にある場合には、まずは上記の記事を参考に情報収集・リサーチを進めてください。
この記事では、情報収集・リサーチをして、それぞれの選択肢を選んだ場合の未来のイメージがある程度持てているものの、どちらにもメリット・デメリットがあり、一長一短で選べない場合の決断のポイントについて解説していきます。
転職するかどうか、異動するかどうか、起業するかどうか、あるいは、2つの内定先のどちらを選ぼうか、異動先の候補の2つからどちらを選ぼうか――このような2択で迷って決めかねている時は、どちらかが成功でどちらかが失敗という極端な2択ではありません。
どちらの選択肢にも一長一短があり、五分五分や、せいぜい4:6か6:4ぐらいで魅力的。正解/不正解はなく、人によってどちらを選ぶか判断が分かれるような2択になっているはずです。
だからこそ選べないわけです。
このような選択は、例えば、大阪から東京に向かう場合に、「新幹線で行くか、飛行機で行くか」という選択と同じようなものです。
どちらが間違い・どちらが成功という選択ではありません。
極端な話、行きたい目的地に着けるなら、どっちでもいいでしょう。
このような2択の場合、新幹線か飛行機かと悩んだり、それ以上リサーチすることに時間やエネルギーを費やすことはあまり意味がありません。
それよりもどっちでもいいから選んでしまい、選んだ後、目的地でやることに対して、時間やエネルギーを割く方が効果的でしょう。
キャリアも同じです。
今目の前にある選択肢のどちらを選んでも、あなたが望む未来にたどり着けるなら、どちらを選んでもOKです。
転職か、異動か、起業か――このようなキャリアの2択で悩んでいる場合、どちらを選んだから必ず成功するというものではありません。
どちらのルート・選択肢を選ぶにしても、自分が望むキャリアや未来を構築していくには苦労やしんどいことは必ずあります。
また、どちらを選ぶにしても、楽しいこと・嬉しいこともたくさんあります。
今目の前にある選択肢のAかBかどちらを選ぶかという1点が、成功と失敗を分けるのではなく、大事なのは、自分が選択した後に起こることをどう受け止め、どう行動するかです。
今、目の前のキャリアの2択で迷い、決めかねているなら、いったんAかBのどっちを選ぶかという目先の2択から離れて、5年後・10年後にどんな自分でありたいかという長期的なビジョンを考えてみてください。
例えば、「○○の専門家として活躍していたい」というビジョンがあるなら、自分にとってAのルートを通っていくのがいいのか、Bのルートを通っていくのがいいのか、どちらが適しているのかを考えてみましょう。
このように考えた時に、「あれ?Aの選択肢は自分が目指している目的地に通じていないぞ」と、気付く場合もあります。
例えば、目先の収入やポジション、有名企業であるということなどに目がくらんでいたが、Aの選択肢を選んだら、収入は上がるかもしれないが、その専門家になるために必要なスキルアップの機会が少なくなってしまうなら、そもそも選択肢は2択ではなくてBの一つしかありません。
それなら迷う必要はなく、Bを選んでやるしかないということになります。
今、AかBかの2択で悩んでいてAを選んだとします。
未来は誰にも分かりませんから、その結果、後悔することもあるでしょう。
例えば、転職してみたら、予想以上に環境の変化が大きく、社風の違いや業務の進め方の違いなどに戸惑うことがあります。
なかなか力を発揮できない環境にイライラしたり、「こんなことなら転職するんじゃなかった。なぜ転職してしまったんだろう」と後悔する気持ちになることもあるでしょう。
いくら事前に情報収集・リサーチをしても、やってみないと分からないことは多いものです。
これまで自分が当たり前だと思っていたことは当たり前ではなく、ありがたいことだったのだと気づいたり、今まで自分の力でやってきたと思っていたことが、周りの人のサポートや会社の知名度でできていたのだと気づくこともあるでしょう。
会社によって社風の違いがあると多様性に気付くことで、視野が広がることもあります。
このように後悔を「気付き」と捉えられる人は、その気付きを未来に活かすことができます。
新たな環境で力を発揮していくにはどうすればいいのかを考え、自分事としてできることから取り組んでいくことで成長し、より良い未来を作ることができます。
他方、後悔を失敗と捉える人は、「なぜAを選んでしまったんだろう、なぜあの時Bを選べなかったんだろう」と悔やみ続けます。
つまり、後悔するかどうかの違いは、AとBのどちらを選ぶかではなく、選んだ後の後悔をどう受け止めていくかで決まるのです。
後悔から得た気付きを未来に活かしていくには、前提として「自分の過去の選択は変えられない」と受け入れる必要があります。
「想像とは違う結果になって残念だが、あの時の自分の知識やリサーチ力ではここまでの想定はできなかった」という事実を潔く認め、「悔しいけど過去は変えられないし、仕方がない」と受け入れることができてはじめて気持ちを切り替え、未来を向くことができます。
そして、未来志向で気付きを活かし、より良い未来を作っていくことができるのです。
「あの時なぜAを選んでしまったんだ、なぜBを選ばなかったんだろう」と悔やみ続けてしまっている時は、「自分の過去の選択は変えられない」と受け入れられていません。
「当時の自分の知識やリサーチ力ではできなかった」という事実を受け入れずに、「頑張ればBを選べたはずなのに」という思い込みにとらわれて、過去ばかり見てしまっています。
つまり、成功と失敗を分けるのは、Aを選んだかBを選んだかではなく、選んだ後に起こったことを受け入れ、未来志向で行くのか、起こったことを受け入れられずに過去にとらわれるのかという違いなのです。
プロ野球選手が三振してしまった時、「なぜ三振してしまったんだ」と悔やんでも打率は上がりません。
結果を出すためには、三振したという事実を淡々と受け入れ、次の打席に向けて気持ちを切り替え、三振という結果から得られた気付きを次の打席に活かしていくしかありません。
「本当は打てたはずなのに風向きが悪かったから」とか、「調子がいい時ならできるんです」などと言い訳ばかりして、三振という過去の結果や事実を受け入れなければ、次の結果に繋がることはないでしょう。
転職してみて、元の環境の方が自分に合っていたと気がついて、元の会社に戻る選択をする人もいます。
起業してみて、なかなか上手くいかず、「自分には会社員の方が向いているんだな」と気付いて、再び会社員に戻る選択をする人もいます。
このように元に戻る選択を「失敗」であるとか「負け」のように捉える人がいますが、そのような柔軟性のない考え方では気付きを活かすことができず、幸せなキャリアを構築することは難しいでしょう。
何かを選んで後悔し、気付いた結果、より良い未来を作っていくために元の環境に戻っていくことがベストであるなら、迷わずそちらを選択するべきです。
「元に戻るのは負け」とか「格好悪い」のような変なプライドや思い込みで、自分にとって一番ベストな道を閉ざしてしまうことが一番もったいないのではないでしょうか。
また、どうせ元に戻るのであれば、やらない方が良かったと思う方もいますが、それも違うでしょう。
「元の環境の方が自分に合っていた」という気付きは、何かを選択して後悔したこそ得られたものです。
もしその選択をしていなければ、その先にあるのは、単に「気づいていない未来」です。
同じ環境に戻るにしても、「後悔→気づき→元に戻る選択」というルートを通ってきた人の方が、気付きがある分、成長しています。
ですから、やらない方が良かったとか、やったことが無駄ということは全くないのです。
しかし、同じように後悔して元の環境に戻る選択をする場合でも、後悔を失敗と捉え、過去の選択を悔やみ続けて「やらなきゃよかった」という思いだけで戻るのであれば、当然、気付きも成長もなく、より良い未来にはなりません。
時々、「自ら辞めた会社に戻ることはできない」と決めつけている人がいます。それはもはや古い考えでしょう。
アルムナイという言葉をご存知でしょうか。
これは、英語で「卒業生」「同窓生」という意味で、人事分野では定年退職者以外の退職者を指します。
かつての日本では終身雇用・囲い込みの雇用慣行が根強く、定年や家業を継ぐなどの理由以外で会社を辞める人を良く思わない風潮がありました。
やりがいや、より良い待遇、自分に合った環境を求めて辞めていく従業員に対して「裏切られた」と口にする経営者さえいました。
今でもそのような考えの方はいると思いますが、一体いつまで昭和を引きずっているのでしょうか?
すでに終身雇用は崩壊しています。
2023年5月に政府から出された「三位一体の労働市場改革の指針」の冒頭は、次の文章から始まっています。
「働き方は大きく変化している。
『キャリアは会社から与えられるもの』から
『一人ひとりが自らのキャリアを選択する』時代となってきた」
(出所:首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202305/16shihon.html)
このように政府も言っているわけですから、自らのキャリアを選択することは当たり前のことです。
むしろ、変化の激しい今の時代、自分の人生の舵を自分で切っていくことは、自分の責任でやるべきことであり、裏切りと非難されるようなものでは全くありません。
さらに、少子高齢化・人口減少から、人手不足・採用難が近年顕著になっています。
こうした背景から、アルムナイを貴重な人材リソースとして活用していこうという企業が増えています。
アルムナイはもともとその会社にいた人ですから、社内の風土や事情、人間関係、仕事の進め方も分かっている部分が多く、自社の商品・サービスの知識も豊富です。
また、他社を経験したことによって、違った視点から自社の問題を指摘したり、より良いやり方を提案してくれるなど、会社に新しい風をもたらしてくれる可能性もあります。
アルムナイを活用することは企業にとっても大きなメリットがあるのです。
このような時代に変化しているのですから、キャリア選択においても「いつでも選択しなおせる」ことを念頭に置く必要があるでしょう。
現時点で自分が選ばなかった方の選択肢に対しても、いつでも戻れたり、選び直せるように努めていくことが、自分自身の選択の幅やチャンスを広げていくことになります。
これは何も特別なことをする必要はなく、社会人として普通に誠実に対応していればOKでしょう。
例えば、退職する時に連絡もなく突然来なくなるとか、どうせ辞めるんだからと明らかに手を抜くような辞め方ではなく、最後まで誠実に仕事にあたり、必要な手続きをきちんと行い、引き継ぎをして円満退職するなどです。
何らかの事情で自分で手続きができないようなら、退職代行等のサービスを使うことも考えられます。企業の人事サイドも、無断欠勤が続き連絡が取れない、本人の意向が確認できないというのが一番困りますので、このようなサービスの利用を歓迎するところも増えています。
できれば「新たな環境でも頑張ってね」と応援されて退職することを目指せるなら理想的です。
あるいは内定を辞退する場合には、土壇場まで引っ張って急なキャンセルではなく、できる限り早めにお断りするとか、採用活動に時間や労力を割いていただいたことへの感謝を添えて断りの連絡を入れるなど、社会人として誠実に普通に対応していれば問題ないでしょう。
以上、後悔しない選択をするためのポイントを6つご紹介してきました。
まとめると、後悔しない選択をするというより、自分で決めた選択の結果を受け入れ、気付きを活かすことで未来をより良くしていくことがポイントです。
大事なのは後悔しないことではなく、あなたが幸せになることです。
後悔は失敗ではなくて気付きですから、別に後悔してもいいのです。
たくさん後悔があるということは、気付きがたくさんあるということです。
成功している人は、それ以上にたくさん失敗もしています。
それを失敗とは捉えずに、「こういうことに気づけて良かった」、「では、次はこうしてみよう」と未来にフォーカスして気付きを活かしているだけです。
さらに、どのような選択をするかということよりも、大事なことがあります。
それは「自分で決める」ということです。
自分で決めないと自己肯定感が下がっていきます。
時々、転職などの大きな決断の際に「自分で決めるのは怖い。いっそ誰かに決めてほしい。それならうまくいかなかったとしても、自分を責めなくていいし、諦めもつく」という人がいます。
自分で決めずに誰かの意見に従っておく方が、その場は思考力や決断力を使わずに済むので、ラクだと感じることもあるのかもしれません。
しかし、このような考え方を続けていると、どんどん自己肯定感が下がってしまいます。
自己肯定感を高めるためには
この3つのステップを繰り返す必要があります。
転職にせよ、異動にせよ、起業にせよ、今やるかやらないかを自分で決める。
そして、やると決めたらやってみる。
今はやらないと決めたら、現状のキャリアに集中することを「やってみる」。
その結果、後悔することがあったら、その時点で「自分で選んだのだから仕方ない」と過去の自分の選択は変えられないことを受け入れ、その気づきを未来に活かしていけばよいのです。
例えば「転職しなければよかった」と思うなら、なぜそう思うのかを分析して、現状の環境を変えられるのであれば、変えるための努力をしてもいいでしょう。
あるいは元の会社に戻れるなら戻ってもいいですし、後悔から得られた気付きや自己理解を活かして、また新たな環境に転職してもいいでしょう。
逆に、何かをやらないことを選んで、「もっと若いうちにやっておけばよかった」と後悔したなら、これからの人生の中で今が一番若いのですから、今からできることを探して、はじめればよいのです。
この3つのステップの繰り返しで自己肯定感は高まっていきます。
何かをやってみて成功してうまくいったから自信がつくのではなく、自分で決めて、決めた結果を引き受けて未来に活かしていくから自信がつくのです。
そのように自己肯定感を高めていけば「後悔したくないから決められない」と迷うことは少なくなり、決断力も高まります。
もしあなたに先送りグセがあったり、「いっそ誰かに決めてもらいたい。その方がラクなのに」と思うことが頻繁にあるなら、そのパターンが自信を失わせ、決断力をさらに失わせて、あなたをつらくさせてしまっていることに気付いてください。
後悔に怯えて何も決められず、自信を失っていく人生よりも、やるにせよ、やらないにせよ、自分で決めてみて、後悔をたくさんして、「あーやっちまったな」と、そのたびに学んで成長して今後に活かしていく。
そんな人生の方がきっと楽しいですし、精神衛生上もいいですよ。
今回はキャリア選択で迷ったときの後悔しない選び方について、キャリアコンサルタントの立場で解説しました。
まとめると前提条件として
次に、後悔しない決断をするためのポイントは
の6点となります。
さらに、
の2点にもご留意いただくと、さらに決断がしやすくなるでしょう。
今、キャリア選択で迷われている方、悩んでいる方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
常光瑞穂
人と組織のWin-Winで幸せな成長を支援する心理コンサルタント。国家資格キャリアコンサルタント。臨床心理士。
京都大学大学院工学研究科修了後、子どものころから憧れたエンジニアとなるが当時の長時間労働の働き方が合わず1年余りで退職。自身のキャリアが見えなくなったことを機に京都大学、立命館大学大学院にて心理学を学ぶ。2003年開業。修士(人間科学、工学)。