フリーランスや自営業の方から
「単価が安い」
「なかなか思うように稼げない」
「最初の条件から値上げできない」
というお悩みをとてもよく聞きます。
頼まれた以上のことも価値提供しているのに、
その付加価値が無料奉仕になってしまっていて
価値を提供すればするほど貧乏暇なし、
自分の首を絞めている人もいます。
結論から言うと、
値上げするためには高度な専門性や
特別なコミュニケーションスキルは必要ありません。
ただ、交渉の基本的な考え方や伝え方の順序、
必要なマインドを知って実践する必要があります。
実際にたった1回の交渉ですんなりと
2.5倍の単価アップに成功した事例を交えて
交渉スキルも具体的にお伝えします。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
値上げ交渉のための
具体的なノウハウをお伝えする前に
まずなぜ値上げできないのかという原因や
値上げのために必要なマインドについて
お話しします。
具体的な伝え方のノウハウを学んでも
マインドがなければ実践できないからです。
値上げできない最大の理由は
そもそも値上げに取り組んでいないことです。
スキル不足や提供している価値が足りない
ということではありません。
むしろ、素晴らしい価値を提供しているのに
値上げや適性な価格設定に
取り組んでおられないから
上がらない場合がほとんどです。
なぜ取り組まないかというと
「難しい」「できない」と思っていたり、
そもそもやってはいけないと思い込んでいるからです。
値上げを言い出すなんてがめつい、
はしたないみたいな思い込みを持っていたり、
また、「相手の方に申し訳ない!」
「お世話になっているのにダメなことだ」と
罪悪感を持つ人もいます。
「仕事があるだけありがたい、
文句を言うなんて…」みたいに
思っている人もいます。
結論から言うと、
値上げ交渉はもちろんOKです。
むしろ、必要なタイミングで
当然取り組むべきことだと私は思います。
会社員なら昇給制度があり、
スキルが給与に反映されていきます。
会社員で昇給した人に、
「お前、会社にお世話になってるのに
昇給までして申し訳ないと思わないのか!
昇給を断って初任給で60まで働け!」なんて言いません。
フリーランスには会社員のような
決まった昇給制度はありません。
良い仕事をしていれば、
自動的にクライアントやお客さまが
単価を上げてくれるということは
ほとんどないでしょう。
そもそもクライアントやお客さまは
あなたの上司や経営者ではありません。
ですから、クライアントやお客さまに
「ちゃんと仕事ぶりを見ていて
言わなくてもそっちから察して
値上げしてほしい」なんて期待するのは
相手を間違っています。
フリーランスや自営業が
ご自分でご自分を昇給させる仕組みをつくるのは
当たり前のこと。
それも仕事のうちです。
会社員なら、キャリア形成を
人事や上司など会社が
サポートしてくれる部分があります。
フリーランスは、
自分で自分の上司や人事役となって、
自分が幸せなキャリア形成できるように
しっかりサポートしてあげる必要があります。
また、会社員なら、
お取引先様から値切られたからと言って
その案件の担当者の給与が下がることはありません。
逆に言うと、営業さんが
何でもかんでも案件をとってきているわけではなく
ちゃんと人件費や経費をまかなえて、
会社に利益が残る条件でしか契約していないはずです。
会社員ならそういう利益計算をして、
「この単価でこういう仕事を受ける」という
仕組みを誰かが作ってくれています。
だから安定してお給料がいただけるわけです。
フリーランスは受けた仕事の単価が
自分の収入に直結します。
値切られちゃったら即給料カットです。
だからこそ、単価設定を
しっかり考えていく必要があります。
また、会社員だと
好きな仕事を選べるわけではありません。
時にはやりたくない案件も
やらなければならないことがあるでしょう。
フリーランスは、
本来は自分で自由に仕事を選ぶことができます。
しかし実際には、
好きな仕事、やりたい仕事だけを
選べている人ばかりではありませんね。
好きな仕事を選ぶためには、
セルフイメージやキャリアプランが必要です。
専門家としてのスキルが高ければ
好きな仕事を選べるというわけではありません。
実際にはスキルが高くても
自分を過小評価して
低単価で気の進まない仕事も受けなきゃと思い込み
苦労している人もたくさんいらっしゃいます。
フリーランスや自営業の方によくある課題としては
専門職としてのスキルアップは考えていても、
ストイックすぎたり、
セルフイメージが低くて
自分の幸せなライフプランを
考えていない人が多いです。
基本的には好きなことを仕事にしている
専門職の人が多いので、
「好きなことしているから幸せ」
「好きなことできるだけでありがたい」と
自分自身の生活の向上に無頓着な人も
割と多いように感じます。
本当に心から幸せで
毎日満たされてるならOKです。
しかし、内心ちょっと我慢しているけど、
「贅沢言っちゃいけないな」とか
「ま、こんなもんだろ」と
自分に言い聞かせているなら、
わざわざそんなことを言い聞かせないで、
もっと幸せになるための方法を
考えてもいいのではないでしょうか。
別に好きなことを仕事に選んでいても、
時間的にも精神的にも金銭的にも
さらに余裕を持ちたいと、
そのための方法を考えていくことは
もちろん悪いことではありません。
以前、弊社のキャリアデザイン教材を
ご覧いただいた自営業の方から
こんな感想をいただきました。
「教材を読みながら、自分自身について、
このままで良いなと思ったところと
このままだとこの先しんどくなるから
改善しないといけないところもありました。
一人で仕事をしていると
なかなか他者からアドバイスを頂く事も無かったので、
貧乏暇なしなんて当たり前の考えになっていましたが、
立ち止まって考える良い機会になりました。」
(自営業 Tさま)
ご感想ありがとうございます。
Tさんのような方は多いのではないでしょうか。
私もそうですが、
好きなことをやっていて
自営業、フリーランスだと
それだけで結構満たされちゃうところがあります。
毎日好きなことやって
割と裁量性の高い自由な働き方で、
お客さまにも喜んでいただけて
日々まあ楽しくて幸せです。
でも今はよくても、
長期的に考えた時に
10年後、20年後、体力も衰えたりして行く中で、
今の単価で自分の時間や専門知識を
切り売りし続けていくことが
本当に幸せな人生につながるのか?ということは
しっかり考えていく必要があると思います。
以前、50代の専門職フリーランスの方から
とても切ないご相談を受けたことがあります。
その方は、若いころはご依頼がたくさんあって
稼げてたけど、
時代の流れでだんだん需要がなくなってきて、
単価も安くなり、じり貧になってきてどうしよう…
そんなご相談でした。
「もっと若いうちからしっかり計画して、
他の分野でもスキルを身につけるとか、
考えておくべきだったんだよね。
でも、若いころは同年代の会社員より
普通に全然稼げてたから、
勝手にこの状態がずっと続くって
勘違いしちゃってたんだよね。」
そんなふうにおっしゃっていて、
なかなかつらいなと身につまされる思いでした。
服装もきっちりしていて、
話し方も上品で、
まったくちゃらんぽらんな感じの人では
ありませんでした。
むしろ生真面目な印象で、
専門職として普通にがんばってこられた
善良そうな人に見えました。
もちろん何歳からでも、
できることを考えていくことはできます。
しかし、やはり切羽詰まってからでは、
残念ながら取れる選択肢には限りがあります。
なるべく早くから
長期的な視点で考えておくのがいいでしょう。
特に今時代の流れもすごく早くなっています。
私自身も自分は安泰だ!なんて全く思っていません。
むしろ、この時代の流れについていくの大変だなぁ!
長期的な視点でしっかり考えて、
時代に合わせてスキルアップしていかないと!と
そこはすごく危機感を持っています。
低単価な仕事をすると、
一定の収入を得るためには
長時間働く必要があります。
そのような仕事に長時間拘束されるということは、
単に収入が上がらないというだけではなく、
リスキリングための時間やお金が
捻出できないことにもつながっていきます。
変化の早い今の時代、
自分の職業領域や専門分野以外のところでも
時代の流れにあわせて、
ツールを使いこなしたり、
デジタル化を進めたり、
ビジネスパーソンとして必要なスキルを
身につけていく必要があります。
長く活躍し続けるためには
ある程度視野を広く持ち、
専門分野以外でもスキルアップのための
自分への投資が必要になります。
単価を設定する際には、
自分の時給という視点だけではなく、
こういったスキルアップのための
費用や時間が捻出できるかという視点も大事です。
会社員なら、時代の流れで
ある事業で稼げなくなっても
いきなり収入が途絶えたりはしません。
なぜそれが可能かというと、
会社として利益を蓄積し、
備えているからです。
それは事業を存続させるために
当然のことです。
そうした余裕があって事業が存続できるからこそ、
お客さまにも貢献し続けられます。
自営業やフリーランスは、
自分が自分の経営者です。
事業を存続させるために仕組みをつくることは、
当然のことです。
その備えがしっかりあるからこそ、
安定して顧客に価値を提供することもできます。
値上げできない最大の原因はマインドです。
冒頭で、値上げに対して
「お客さまに申し訳ない」とか
「ダメなこと」と罪悪感を持っている人もいると
お話ししました。
そのようなマインドがあると
交渉の伝え方のノウハウやテクニックを知っても
実践できません。
「自分で自分の単価を決めて交渉していくことは、
事業を存続させて、
顧客に価値を提供するために必要なことだ」
というマインドをつくるところから
はじめていきましょう。
では、いよいよ交渉スキルのノウハウを
具体的に解説していきます。
交渉事は4つのステップで伝えていきます。
1.まず双方が同意できる客観的事実を伝えます。
2.次に主観的想いや感情を伝えます。
これは自分の想いだけではなく、
相手の想いや事情など
相手の立場もあわせて考えます。
3.次に提案をします。
4.その提案に対して相手がNoだった場合の
別の選択肢、オプションも考えておきます。
いきなり交渉に臨むのではなく、
まずはこのフレームワークを使って、
紙に書き出して整理し、
セリフを考えてから交渉します。
私の以前のクライアントさんの事例を
許可をいただいてご紹介します。
Web関係のフリーランスMさんの事例です。
Mさんは取引先の単価が安いなぁと
感じていました。
しかし、それに対して
特に何かをしていたわけではなく
仕方ないかとあきらめていた状態でした。
Mさんは、元々私のコンサルを受けたい!と
申し込んでこられた方ではありません。
私が参加したセミナーでたまたま
同じ受講者としてご一緒した方です。
セミナーを一緒に受けながら、
どんなお仕事してるんですか?とか
雑談している中で、
「Web関係の仕事で、単価安いけど、
ま、仕方ないですよね」という話が出てきたので
「それなら値上げ交渉したらいいのでは?」と
お伝えしたら、
「え?そんなのできるんですか?」という流れで
知り合った方です。
まずフレームワークで整理すると、
そもそも「値上げ交渉をぜひしたい!」という
モチベーションまで全く行っていなかったので、
最初は単価が安いなと不満を抱えつつも、
ま、仕方ないよねという想いでした。
最初はフレームワークもこれだけしか
埋まっていない状態です。
ここからコンサルして、
この空欄を埋めていく形で
事実や想いを整理していきました。
事実としては、
単価がプロジェクトの10%。
詳細はふせますが、
このお取引先様とお仕事をするようになって
何年か経ち、
最初はできなかったこともできるようになり、
スキルアップして最初よりも
価値を提供できている状態でした。
ですから、Mさんの想いとしては
単に安くて不満だというわけではなく、
当初よりも価値を提供できているのに、
単価が変わらないのはキツイという想いでした。
また、交渉相手となる取引先のA社長については
仕事の中身もちゃんと分かって下さっていて、
とても仕事がやりやすく、尊敬している。
A社長と一緒に仕事をする中で
学べる部分がたくさんあり、もっと吸収したい。
だから単価以外の点ではとても満足していて、
この案件は手放したくないとのことでした。
ではそんなふうにA社長から学んで
Mさんは将来的にどうなっていきたいんですか?と
Mさんご自身のビジョンをお伺いすると、
「え?なんだろう?
そんなことあまり考えてなかったけど…」と戸惑い、
「こんなこと言っていいのかなー、
おこがましいかもしれないんですけど…」と
遠慮がちながら
「目標はA社長みたいになることかもしれません。
私もA社長みたいに案件を自分でとってきて、
チームをつくって分担して
プロジェクトを進めていく立場になりたいです」と、
ゆくゆくは上流側で仕事をしたいという
想いが出てきました。
では、交渉相手のA社長は
どういう想いや感情を持っているのか?
相手の立場で考えてみると、
Mさんがまずおっしゃったのは
「私がこんな話したら驚くでしょうね」と
いうことでした。
これまでMさんはイエスマンで
自分さえガマンして丸く収まるならと、
何事もやり過ごしてきたタイプとのこと。
ですからそんなMさんが
「社長、ちょっと金額について
お話しがあるのですが」なんて言うこと自体が
A社長はびっくりするだろうなと。
また値上げを言われて
嬉しい人はいないでしょうから
A社長も嬉しくないんじゃないですか?と
想像されていました。
でも、実際のところは
こういう話を全然したことがないから、
A社長がどう思っているか、どう感じるか、
分からないという状態でした。
次に提案したい内容や
Noだった場合のための選択肢は、
という案が出てきました。
コンサルの中で、
フレームワークがここまで埋まりました。
この中から、実際に伝えたいこと、
伝えなくていいことを取捨選択し、
1.事実
2.主観的想い
3.提案
4.別の選択肢
の順で、伝えるセリフを考えます。
今回は、次のように伝える内容と順番を決めました。
1.事実
「Aさんと一緒に仕事をするようになって
○年ですね。
おかげさまで当初よりスキルアップでき、
○○の部分でも価値を提供できるようになりました」
まずは、最初よりも業務範囲が増えたり、
価値提供ができていることをしっかり
言語化してありのままに伝え、共有します。
2.主観的な想い
「担当範囲も増えていますし、
最初の単価のままだと正直キツイんです。
突然こんな話をして
驚かせてしまうかもしれませんが、
Aさんとはこれからもぜひ一緒に
お仕事したいと思っています。
私も将来的にAさんのように
上流側の仕事もできるように
成長していきたいんです。」
ここでは自分の想いを伝えるとともに、
「驚かせてしまうかもしれませんが」のように
相手への共感も伝えていきます。
3.提案
「単価を上げてもらえませんか。」
ここは言葉を濁さずハッキリ言い切って下さい。
におわせて察して下さいというのはダメです。
ここまで伝えてすんなり通ればOKです。
相手がこの提案にNGだった場合に伝える
別の選択肢も心の中には用意しておきます。
4.別の選択肢
「すぐに無理なら次の予算組で
検討していただけませんか。
それもムリなら、別の担当者も入れて
業務分担をお願いします。」
さあ、伝えたいことが整理できました。
早速明日、Aさんと打ち合わがあるから
伝えてみます!ということです。
どうなるか楽しみですね。
ドキドキ……
さて、気になる結果はどうなったでしょうか?
すんなり単価アップに成功しました。
4番目の別の選択肢は伝えるまでもなく
「単価上げてもらえませんか」
「うん。分かった」と、すんなりOKでした。
単価がこれまでのプロジェクトの
10%から25%(2.5倍)になりました。
すごくないですか?
全く同じ業務で2.5倍です。
そしてさらにこれだけではありません。
「新たな事業のパートナーになってくれないか」と
A社長から誘われました。
交渉前にMさんが一番心配していたことは
交渉によってA社長との関係が
壊れてしまうことでした。
しかし、実際には関係が壊れるどころか
さらに信頼関係が増したのです。
Aさんが希望している
上流工程に関われるチャンスが早速来ました。
それまでのMさんは言い方は悪いですが
「便利な下請け」というポジションだったのでしょう。
それが、こういった交渉もできる、
しっかり言葉で想いや状況を整理して
伝えられることで
「信頼できるビジネスパートナー」という
ポジションになり、
尊重されるようになったのでしょう。
「フレームワークで事前に整理して、
セリフを考えておいたことで、
冷静に伝えることができました。
このスキルを学んでいなければ
アワアワして愚痴を言うだけになってしまって
相手から『まぁもう少しがんばってよ』と
なだめられて終わっていたと思います。
『関係を壊すのでは?』というのが
一番心配でしたが全くの杞憂でした。
それどころかむしろ関係がよくなり、
尊重されるようになり、驚いています。
常光さん、本当にありがとうございました!」
Mさんの普段からのお仕事ぶりや
これまで提供してきた価値が
適正に認められて本当によかったです。
こんなにあっさりと単価が
2.5倍にもなってしまうんだったら、
なぜ今まで上がらなかったのでしょう?
その原因は3つあります。
まず一番の原因は
そもそも値上げや適正な価格設定に
取り組んでいなかったということです。
そしてそこに取り組まなかった理由は
Mさんご自身のセルフイメージや、
ビジョンのなさが根本的な原因でしょう。
コンサルの中で質問をしたら
「ゆくゆくはA社長のように
上流側のポジションになりたい」という
ビジョンが出てきましたが、
それまでは自分が将来的にどうありたいか、
どのように成長していきたいかという
ビジョンを明確にしたり、
そのために意識して行動されることは
なかったようです。
そんなことを言ったり考えることは
おこがましいみたいな
思いもおありになったようです。
つまり、ご自身で自分のことを
「文句を言わず真面目に依頼をこなす下請け」という
セルフイメージで見ておられたのではないでしょうか。
自分で自分のことをそう評価しているのだから、
相手からも同じように
「文句を言わずに真面目に依頼をこなしてくれる
ありがたい下請けさん」と扱われる。
とても重宝されるけど、
それ以上でもそれ以下でもない
存在になっていたのではないでしょうか。
幸せに成功するために一番大事なものは
セルフイメージだと私は思います。
人生はその人のセルフイメージ通りに
なっていきます。
自分が自分を評価する以上に
他人が勝手に評価してくれることはありません。
また3つ目の原因は、
相手のA社長の想いが分かっていなかったことです。
Mさんから
「すんなり値上げできました!
さらに新規事業まで誘われました。
えーなんで?みたいな、夢みたいな感じです」
と、ご報告を受けた時、
私は、今回Mさんから提案を受けて
A社長は嬉しかったんだろうな、と思いました。
そうでなければ、こんなふうに即日
「いいよ。もっと面白い仕事も
一緒にやらない?」なんて誘われませんから。
もしかしたら、こんなふうに交渉してくるのを
A社長は待っていたんじゃないかな
とすら思いました。
それまでのMさんはご専門のWebについては
信頼してお任せできる人材だったと思います。
しかし、イエスマンで
自分さえガマンすれば…と、
何でも引き受けてしまうところがありました。
そんな人にお客さまとの交渉などは
任せられないですね。
やりますやります!私さえがんばれば!って
低単価や短納期で引き受けてしまったら、
プロジェクトが大変になってしまいますから。
しかし、アワアワして愚痴を言うだけではなく、
こうやってちゃんと自分の想いを冷静に伝えて、
交渉できるならもっと伸びしろがある。
本人も上流側で仕事をしたいという
想いを持っているから、
一緒にもっと面白いことができそうだな、と
A社長は嬉しかったのではないでしょうか。
そして、この人材を逃したくないと
思われたのではないでしょうか。
しかし、交渉する前のMさんは
「値上げを言われて嬉しい人はいないだろう」
「関係が壊れるかも」とものすごく心配していた。
つまり、A社長の想いや期待を
全く分かっていませんでした。
今回、単価が上がったから成功、
もし値上げできていなければ失敗ではなく、
交渉を通じて相互理解ができることが一番大事です。
Mさんの単価が上がらなかった原因は、
1.そもそも取り組んでいなかった
2.セルフイメージ、ビジョンのなさ
3.相手の想いが分かっていなかった
すべてMさんのご専門であるWebの知識とは
全く関係がありません。
つまり、専門知識やスキルだけでは
単価は上がらないのです。
専門職フリーランスの方の中には
ここを勘違いしていて、
適正な価格設定を考えずに
専門性を高めるための努力ばかりしている方も
いらっしゃいます。
厳しい言い方になってしまいますが、
専門性を高める努力は楽しいから
いくらでもできてしまいます。
もともと好きな分野を
仕事にしてるんですから、
それを学ぶこと自体楽しいですし、
自分が慣れ親しんだ分野ですから、
やり方もある程度分かっていますから。
しかし、自分を幸せにするための
ボトルネックはそこではなく、
セルフイメージや
自分が本当に幸せになるためのビジョンを描くこと、
相手の本当のニーズや想いを
とらえるというところにあることが多いです。
また、交渉しても値上げできない場合も
当然あります。
相手の予算の関係や
ビジネスの構造上の問題で
どんなにがんばっても単価が上がらない、
ない袖は振れないという場合があります。
その場合、そこでいくらスキルや貢献を主張したり、
価値を提供してもそれ以上単価は上がりません。
ですから自分が離れるか、
その単価でやり続けるかを決めたらいいです。
それを決めるためには
自分が今後どうなっていきたいかという
ビジョンが必要です。
単価は安くても経験になったり、
人脈作りにつながったりして、
長期的に見ると自分のビジョンにつながるなら、
あと半年はやろうとか、
納得して関わり方を決めることもできます。
単価が上がらなくても、
交渉の結果、内情が分かって、
そんなふうに自分で納得して関わり方を決められたら、
ストレスは少なくなるでしょう。
少なくとも「ここでがんばっていたら
いつか単価が上がるかも」と
かなわぬ期待を持ち続けてしまうことは避けられます。
交渉は、相手を説得することではありません。
交渉は、
ニュートラルにお互いの状況を理解しあって
共通のビジョンを描いていく場です。
相手の顔色を伺ったり、
どう伝えたら相手を説得できるかを考えるのではなく、
自分と相手がチームとなって
一緒に課題解決をしていく、
一緒に幸せになるビジョンを考えることが大事です。
共通のビジョンを描くためには
自分のビジョン、自分がどうしたいかが
明確である必要があります。
同時に、相手が何を望んでいるのかも
知る必要があります。
「相手にどう思われるか」ばかりに気をとられて、
肝心の自分がどうしたいかを考えられていなかったり、
「怒らないか?」と相手の顔色は窺っているけど、
相手が本当に望んでいること、
本質的なニーズをとらえようとしていない方も多いです。
これでは共通のビジョンは描けませんね。
値上げするための共通のビジョンとして
一番分かりやすいのは
相手が儲かることですね。
今あるパイを奪い合って、
「10%じゃなくて15%よこせ」と奪い合うのではなく、
全体の売上や利益が上がることを考えて、
相手も自分も儲けられるようにする。
頼まれたことをただやるのではなく、
相手の状況や想いを理解したうえで、
相手のメリットにつながる提案を
遠慮せずにしっかりお伝えする。
その結果、相手の売上が上がったり、
コストカットができたり、
売上や金額に直結しなくても、
相手のビジネスがより良くなって
メリットを感じたら、普通に
「この人ともっと一緒に仕事したい」と思うでしょう。
そのタイミングで
「値上げして下さい」と言われたら
お互いに幸せになっていこうという
想いのある方ならイヤな気はしません。
「あ、当然ですね。もちろんOKです。
引き続きよろしくおねがいします。
あ、そうそう、新たな案件も相談したくて」となるのは
自然な流れでしょう。
また、値上げができなくても
やるかやらないかの二者択一ではありません。
今のあなたにとって物足りないな、
単価が安いなと思っている案件も、
最初は嬉しかったり楽しかったからこそ、
引き受けたのだと思います。
同じように駆け出しで、
「案件欲しいです!その単価でそのお仕事、
もう喜んでやらせていただきます!」という人が
いらっしゃいます。
そういう方に振る、チャンスをあげるという
選択肢もありますね。
かつてのあなたもそんなふうに先輩から
紹介してもらったことがあるでしょう。
また、自分が受けて、
作業は別の人にお願いして、
上流側になってマネジメントして
仕組み化する方法もあります。
私自身は人をマネジメントするのが面倒なので、
案件を手放して、頼まれたら後任を紹介する
パターンでやっています。
ここは人によって価値観や
趣味嗜好が違うと思いますので、
自分がどうしたいか考えておくとよいでしょう。
また、条件が折り合わなければ
当然ビジネス上の関係はいったん終わります。
しかし、人として付き合い続けたい人なら
付き合い続けたらいいですね。
普通にご飯に行ってもいいでしょうし、
「また予算がある案件とってきたら
一緒にやろうよ」とか、
お互い我慢せずに関係を続けていくほうが
無理なく長続きできるでしょう。
もしかしたらこれまでに
値上げや条件交渉をしたときに
相手に激怒されたり、
暴言をはかれたりしたことのある方も
いらっしゃるかもしれません。
そういう経験がトラウマになっていて
交渉できない方もいらっしゃると思うので、
最後にそれに対する考え方について
お伝えしておきます。
たとえば納期に度々遅れるとか、
約束したことを全然やっていないなど、
明らかにこちらに相当の非があるなら
怒られても仕方がない部分があるでしょう。
しかし、そうではなく、
依頼されている部分はしっかり価値提供していて、
さらに相手のメリットを考えて
最初の条件より価値提供している
状態をつくったうえで、
誠実に事実と想いを伝えた結果がそんな反応なら、
その相手からは離れて正解です。
なぜなら、
「単価を上げて欲しい」という交渉に対して
無理なら「単価は上げられない」と
普通に言えばいいだけですから。
条件が折り合わないからと言って、
激怒されたり、暴言を吐かれる筋合いは
全くありません。
お互い対等な立場で、奴隷ではありませんから。
世の中いろんな価値観の人がいて、
結構世間知らずな人もいらっしゃいます。
フリーランス=どうせ食えてないんでしょ、
仕事欲しいんでしょ、と
なぜか決めつけていたり、
お金を払ってる側がエライと勘違いしている人も
一定数いらっしゃるのが現実です。
そういう人と一緒にいくら仕事をしても
価値が分かってもらえることは絶対にありません。
スキルアップして価値を提供したところで
気付かないです。
自分のリソースや経営資源を
そういう人のために使わないようにすることも
大事なことです。
別に偉そうにする必要はありませんが、
お互いに人として尊重しあえる人に
自分のリソースという貴重な経営資源を使うという
意識はとても大事ですね。
自分が経営者でスタッフさんを雇っている場合、
そのスタッフさんがまっとうに仕事をしているのに
取引先から暴言をはかれたり、
理不尽に激怒されているのに
「相手はお客さんだから仕方ないよ。ガマンして」
なんて言ったら完全にパワハラです。
そんな人や会社のために
がんばろうと思うスタッフさんはいません。
フリーランスや自営業は自分が自分の経営者です。
自分というスタッフが
やりがい持って楽しく働けるように
取引先を選んだり、
取引条件を整え、交渉すること。
これもめちゃくちゃ大事な仕事です。
自分さえガマンすればいいなんて、
自分で自分にパワハラしたり、
低単価でこき使ったり、
理不尽な扱いを受けていても「ガマンしろ」と言う
一人ブラック企業、トンデモ経営者にならないよう
気を付けていきましょう。
常光瑞穂(じょうこうみずほ)
キャリアコンサルタント/心理コンサルタント
経営者・ビジネスパーソンが本当のニーズをかなえるための生き方デザインをお伝えしています。